論文:離職・退職と性格の関係
こんにちは。
新入社員がすぐ辞めてしまう。。。
異動後の若手社員が辞めてしまった。。。
新入社員の給与を上げたら、中堅社員から不満が噴出して辞めてしまった。。。
など退職で頭を悩ませている人事部や上司の方は多いのではないでしょうか。
同じ雇用条件でも辞める人と辞めない人がいるのはなぜ?
もしかすると本人の性格が関与しているのかもしれません!
ということで・・・
今回は、この疑問のヒントになる研究;
ズバリ、離職しやすさに性格は関係しているのか?について調査した論文をご紹介します。
まず結論から言いますと、
「外向性や開放性が高い人は離職しやすい」
可能性があるということです。
引用論文は以下↓
The interaction of the five-factor personality traits and job embeddedness in explaining voluntary turnover: A necessary-condition perspective
(V Peltokorpi et al. European journal of work and organizational psychology Vol.32, Issue 5, 2023)
目次
前提知識
まず、この論文のキーとなるワード”ジョブ・エンベデッドネス(Job embeddedness)”について押さえておく必要があります。
ジョブ・エンベデッドネスは
職務外の要因を考慮したリテンション(優秀な人材の流出を防ぎ、長く活躍してもらうための施策のこと)に関する概念のことで、Mitchell らが2001年に最初に提唱しました。
今まで、リテンションといえば組織コミットメント、
組織アイデンティティ、職務満足度など従業員と仕事の関係性に着目したものが多くありましたが、ジョブ・エンベデッドネスは仕事とは直接関わらない事柄(ex. 住みたい地域、家族構成、趣味など)も含めた概念です。ジョブ・エンベデッドネスの概念を整理すると以下の表のようになります。職務と職務外の2つの側面に加えて、Links・Fit・Sacrificeの3つの次元から構成されています。
on the job(職務に関わる) | off the job(職務外) | |
Links(つながり) 個人や組織との公式・非公式なつながり | 上司・同僚(チームメンバー)との仕事における関わり、職場内のグループ | 職場外での友人関係、趣味、子供を通した関係(子供の友人など)、隣人や何かしらの支援をしてくれる人とのつながり |
Fit(適応) 個人が感じる組織や環境への快適さ・自分がしたいこととしていることが合致しているか | 個人の価値観やキャリア観の組織文化や職務上必要なスキル・能力・知識などへの適合 | 個人が住んでいる地域の環境(文化、生活様式、天候など)への適合 ちなみに・・同じライフステージ・価値観を持つ友人がいると適応しやすくなり、生活様式や気候が合うと生活の質が高められる |
Sacrifice(犠牲) 離職すると失う可能性があるもの | キャリア・築いた地位 上司や同僚との関係 | 個人や家族の転居(転居によるコストなど)、転居による地域社会から受けていた様々なベネフィット(パートナーの職、子供の教育、親族との距離など) |
ジョブ・エンベデッドネスの特徴は、離職もしくは定着の要因に職務外のことを含めたこと以外に、職務内外の人間関係を含めたことや、感情的な面と非感情的な面を両方含めたことです。
研究の背景・仮説
今まで組織行動学の研究では、因果関係を事象の相関関係に基づいて解釈したものが多くありました。具体的にいうと、ジョブ・エンベデッドネスは自発的な離職と負の相関関係があることがわかっています。また、ジョブ・エンベデッドネスが高いと離職が低いことが示唆されており、これらの結果を用いて、ジョブ・エンベデッドネスと離職の因果関係について相関関係に基づいて解釈し、ジョブ・エンベデッドネスが低いことが離職の原因だと推論されています。しかしながら実際には、ジョブ・エンベデッドネスが低くても、組織に留まることはもちろんあります。
そこでこの研究では、「
必要十分条件」の観点から考えて、ジョブ・エンベデッドネスと離職の関係性を理解しようとしています。
そこで仮説として、
ジョブ・エンベデッドネスが低いことは自発的な離職の必要条件であるのではないかということを筆者らは考えました。
また、上記に示したジョブ・エンベデッドネスと離職の関係性は、人によって何かしら違うことも示唆しています。つまり、ジョブ・エンベデッドネスが低い状態でも、留まる人もいれば離職する人もいるのです。これまでの研究では、人間の行動は人と状況の相互作用であると言われています。つまり、個人は同じ状況に対して異なる解釈をする可能性があるということです。
そして、予測と結果の違いを生む一つの調整因子として性格特性があるのではないか考えられる研究がされてきました。一方で、過去の研究から、性格特性が直接的に離職に影響しているとは考えにくく、
性格特性はジョブ・エンベデッドネスの低さと離職の関係性を緩和または増強する役割ではないかという仮説を詳しく検証することにしました。性格特性はビッグファイブの5因子特性を用いて分析しています。
わかったこと
5因子それぞれ以下のような結論になっています。
外向性・開放性は、ジョブ・エンベデッドネスの低さと離職の関係性を強化します。
協調性は、ジョブ・エンベデッドネスの低さと離職の関係性を緩和します。
勤勉性・神経症傾向はジョブ・エンベデッドネスの低さと離職の関係性について強化も緩和も示しませんでした。
感想
性格特性と離職の関係性について、ジョブ・エンベデッドネスの低さを必要条件とした上で、語っていることで、とても納得感のある結果が得られているなと思いました。
この論文から言えることは、まずは
ジョブ・エンベデッドネスを高くすることはとても重要であること、そして個々人によって性格特性は違うので離職を防止する対策も変わってくるということだと思います。企業側の柔軟な制度設計や上司の柔軟な対応能力が求められますね。
さらに昨今では、副業や越境学習なども盛んになり、ジョブ・エンベデッドネスの職務と職務外のどちらの側面に当たるのか分からないようなものもありますので、ジョブ・エンベデッドネスの概念自体もこういった動きも考慮したものに変化していくのかもしれません。従業員に対してジョブ・エンベデッドネスの度合いを調査する場合は、上記で説明した要素に加えて考慮するべき要素なのかなと思いました。
以下、参考
組織コミットメントとは
従業員が組織に対して持っている感情的な愛着や帰属意識などのこと
1.情緒的コミットメント(affective commitment)
従業員の組織に対する感情的な愛着や同一化、積極的な関与に由来するもの
2.継続的コミットメント(continuance commitment)
従業員が組織を辞めた場合に発生するコストに由来するもの
3.規範的コミットメント(normative commitment)
組織に居続けなくてはならないという義務感に由来するもの
組織アイデンティティとは
従業員が”自分たちの会社はどういう存在か?”という問いに対する認識のこと。Albert and Whetten (1985)によって提唱された概念であり、中心性(自社を特徴づける要素)・連続性(中心性が組織の中でずっと維持されている)・識別性(自社の独自性)の3つの要素を満たす概念としている。この3要素を従業員や経営者が問うことで組織アイデンティティが確率されると言われている。
職務満足度
従業員がどれくらい仕事や会社に満足しているかを示したもの。
その他参考文献
Mitchell, T. R., Holtom, B. C., Lee, T. W., Sablynski, C. J., & Erez, M. (2001). Why people stay: Using job embeddedness to predict voluntary turnover. Academy of Management Journal, 44(6), 1102–1121